冬 井伏鱒二
三日不言詩口含荊棘
昔の人が云ふことに
詩を書けば風邪を引かぬ
南無帰命頂礼
詩を書けば風邪を引かぬ
僕はそれを妄信したい
洒落た詩でなくても結構だらう
書いては消し書いては消し
消したきりでもいいだらう
屑籠に棄ててもいいだらう
どうせ棄てるもおまじなひだ
僕は老来いくつ詩を書いたことか
風邪で寝た数の方が多い筈だ
今年の寒さは格別だ
寒さが実力を持ってゐる
僕は風邪を引きたくない
おまじなひには詩を書くことだ
(井伏鱒二『厄除け詩集』より)
2012年12月20日
posted by ひよこ豆 at 23:00
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